聖歌点描(6)


『ザビエルの聖歌』

  山本直忠の聖歌に基づく 「ザビエル讃歌」 この曲は聖フランシスコ・ザビエルの来日450年記念演奏会のために、エリザベト音楽大学のエヴァルト. ヘンゼラー教授(イエズス会司祭)と安足磨由美さんが、当時同大学の講師をしておられた小玉好行さん(現・県立広島大学助教授)に作曲を委嘱し、1999年11月7日(日)・世界平和記念聖堂(広島・幟町カトリック教会)で、作曲者自身の指揮によって初演されたものです。

 合唱ファンタジーというかオラトリオというかカンタータというか、何れにしても聖人の面影と遺徳を偲(しの)びつつ、その通功によって現代に生きる私たちの信仰が鼓舞されるすばらしい曲です。聖人の生誕500年記念にも通用する普遍的な曲なので、僭越(せんえつ)ながらここにその一端を紹介させていただきます。


 ●曲は静かな器楽の前奏曲に続いて伝統的な聖歌が歌われ、それがダイナミックで現代的な祈りの合唱に発展し、内なる魂の昂揚を秘めて曲を結びます。 編成は混声4部合唱、アルト・リコーダー3本、チェロ又はファゴット、ピアノ又はオルガンだけの簡素なものですが、 演奏者の他にナレーター(語り手)がいて、物語の進行役をつとめています。 

 ●先ず、音楽が始まる前にザビエル聖人の「十字架上のキリストへの祈り」がナレーターによって朗読されます。 その「祈り」は中間部の現代的な合唱で再現されるので、それが全曲のメッセージの主題と考えていいかと思います。聖人の個人的祈りが、皆の、全体の唱和に発展していくことを暗示しているようです。多少長くなりますが、その「祈り」の全文を掲げます。

  <主よ、私があなたを愛するのは、あなたが天国を約束されたからではありません。あなたにそむかないのは、地獄が恐ろしいからではありません。

  主よ、私をひきつけるのは、あなたご自身です。私の心を揺り動かすのは、十字架につけられ、侮辱(ぶじょく)をお受けになったあなたのお姿です。あなたの傷ついたお体です。あなたの受けられた辱(はずかし)めと死です。

  そうです・主よ、あなたの愛が私を揺り動かすのです。ですからたとえ天国がなくても、主よ、私はあなたを愛します。たとえ地獄がなくても、私はあなたを愛します。

  あなたが何もくださらなくても、私があなたを愛します。望みが何もかなわなくても、 私の愛は変わることはありません>

 
●この朗読と合唱による「祈り」の間に、以前「神田教会報」132号」でご紹介した山本直忠(1904-65)さん作詞・作曲になる「ザビエル讃歌」が織りこまれています。

  1)    人もし霊を  失わば 世界全てを
      勝ちうとも 何の益にぞ  なりぬべき
  2)    み言葉聞きて ザベリオは 富とすべての
      栄えをば 捨てて布教に つきました
  3)    苦しき時は  夜半(よわ)に起き 我に苦行を
      与えよと 願い求めて  祈りたり
  4)    ジパンに着きて ひたすらに 神の道をば
      説きたまい やがてみ教え 広まりぬ
  5)    今を去ること 400年 広く東亜の
      布教終え 我ら導き   たもうなり
  6)    そのみ教えは 今もなお ここに残りて
      いや増しに 神のみ園へ  ひきたまえ
  7)    ああ聖フランシスコ・ザベリオよ 我ら東亜の
      子羊を 神の導き   たまえかし

  山本直忠さんは熱心なザビエル聖人の崇敬者でいらしたそうで、この詞にその熱情を感じます。1950年の作で、今となっては字句に若干の違和感がありますが、小玉さんのすばらしい混声4部用編曲によって、現在にも通用するみずみずしい「ザビエル讃歌」として甦っています。

  歌詞の一部を改定すれば、日本人になじみやすい75調の歌詞と曲なので、この部分だけ抜き出して、会衆用聖歌として奉唱することも十分可能かと思います。

  ●表題にあるとおり、音楽的にはこの山本さんの曲を基調として全曲が構成されているわけですが、この約50年前の山本さんの「ザビエル讃歌」が伝統的な機能和声で歌われ、それに400年前の「十字架上のキリストへの祈り」が近代和声でこだまするところに、絶妙な音楽的コントラストの妙を感じます。

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つまりこの曲では、メッセージ的には「個と全」が、音楽的には「古と今」が対照的に配置され、交差し、融合し、歴史に生きる聖フランシスコ・ザビエルの姿と思いを、まざまざと想起させてくれるのです。そして、高らかな終結和音が奏された後、ナレーターは次の「ザビエル最後のことば」を語って曲を閉じます。

  <主よ、おん身により頼みたり、  わが望みは、永遠に空(むな)しからまじ>

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この曲はまだ広島で2回しか演奏されていないようですが、
もったいないことと思います。CDも未発売ですが、作曲者と
委嘱者のご好意により楽譜は頂いています。興味のある方はどうぞご覧ください。このような音楽は他になく、日本の各地で歌いつぎ、広まることを願っています。 
(文責 K.O.